厚生労働省は、令和4年4月1日より、HPVワクチンの定期接種の推奨を再開しました。
子宮頸癌とワクチンについてまとめてみます。
疫学では、子宮頚癌は毎年約1.1万人が診断され、毎年約2900人が亡くなっています。
子宮頚癌の罹患率も死亡率も増加傾向で、以前と比べて、低年齢化しています。
20歳代がから増え始め、30歳代までに癌治療で子宮を失ってしまう人が年約1000人います。一生のうちに子宮頚癌にかかる人は、1万人あたり132人(35人クラス 2クラスに1人)、子宮頚癌でなくなる人は1万人あたり34人(35人クラス 10クラスに1人)います。
子宮頚癌の病態です。
全女性の70%がHPVに感染するとされています。200種類以上あるHPVのうちの発癌性HPVである15種類のいずれかが、正常な子宮頚部の細胞に感染し、90%が自然消滅、10%が持続感染し、その極一部が異形成(前癌病変)となり、数年から十数年かけて進行して癌細胞になります。
発癌性HPV(ハイリスクタイプ)15種類は、16、18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,78,82型です。子宮頸癌患者から検出されるタイプの割合は(2006年の報告)16型 44.8%、18型 14.0%、52型 7.0%、58型 6.7%、33型 6.3%、31型 5.2%、35型 2.3%、その他 13.7%でした。子宮頸癌の95%がHPV感染により生じると考えられていています。
子宮頚癌の予後は、5年生存率(2016年 日本産婦人科学会)は、StageⅠで92.4%、stageⅡで 76.7%、stageⅢで54.3%、stageⅣで25.2%です。
早期に発見された場合は、治療として円錐切除ですみ、命を落とさずにすみますが、不妊や流早産の原因になることがあります。
進行した前癌病変(異形成)や子宮頚癌の段階でみつかると、手術や放射線治療、抗癌剤投与などが行われますが、なくなる方も多くなります。子宮全摘や、広汎全摘などが行われ、助かっても、妊娠できず、排尿障害や下肢の著明なリンパ浮腫などの合併症で苦しむ方もいます。
子宮頚癌で苦しまないためにできることは、HPVワクチンと子宮頚癌検診の2つです。
HPVワクチンについて
1回でも性交渉があれば、HPV感染による子宮頚癌のリスクが高まるので、性交渉の前に頚癌ワクチン(定期のサーバリックス、ガータシル、任意のシルガード9)を接種して予防することが理想とされています。
サーバリックスは2価(16・18型)ワクチンで、子宮頚癌の60~70%をカバーします。
ガータシルは4価(6・11・16・18型)ワクチンで、子宮頚癌の60~70%をカバーし、
外陰部上皮内腫瘍、腟上皮内腫瘍、尖圭コンジローマを予防します。
シルガード9は9価(6・11・16・18・31・33・45・52・58型)ワクチンで子宮頚癌の90%近くをカバーします。
子宮頸癌の定期接種の対象は、小学6年生~高校1年生です。
HPVワクチン接種を1万人が受けると、受けなければ子宮頚癌になっていた約70人
(59~86人)がかからなくてすみ、約20人(14~21人)の命が助かると試算せれています。
サーバリックスの接種時期は、 0,1,6ヶ月の3回で、ガータシルの接種時期は、0,2,6ヶ月の3回です。
HPVワクチンさえ打っていれば、絶対に子宮頚癌にならないわけではなく、
ワクチンを接種しても、しかるべき年齢になったら必ず子宮癌検診を受けるべきです。
HPVワクチン接種後に生じた症状の報告頻度は、1万人あたり10人で、重篤な症状の報告頻度は1万人あたり6人でした、副反応で頻度の高いものは疼痛、発赤、腫脹などです。
頻度が低いが重篤なものとして、アナフィラキシー(蕁麻疹や呼吸器症状を呈する重いアレルギー)、ギラン・バレー症候群(脱力などを呈する末梢神経の疾患)、急性散在性脳脊髄炎(頭痛、嘔吐、意識障害などを呈する中枢神経の疾患)などがあります。
また、広範囲に拡がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動などを中心とした多様な症状が報告されていますが、画像検査や血液検査で異常所見がなく、機能性身体症状と呼ばれています。HPVワクチン接種歴のない方においても、同様の多様な症状を有する方が一定数存在し、ワクチン接種との因果関係があるとは証明されていません。
接種後ストレス関連反応(ISRR)として、急性期に失神や迷走神経反射を認める方、遅発性反応の解離性神経症状反応(DNSR)として、脱力または麻痺、不自然な動きや四肢の姿勢、不規則な歩き方、言語障害、明らかな生理学的根拠のない心因性の非てんかん発作を呈する方がいます。
そのため、極端に痛みに弱い方や不安が強い方、今まで採血や他のワクチンで失神したことある方は、ワクチン接種を慎重に行う必要があります。
ワクチン接種後体調不良があれば、接種した病院にご相談下さい。症状によっては、協力医療機関の支援が受けられ、また、因果関係が認定された方は、予防接種健康被害救済制度を受けることができます。
子宮頚癌検診にて早期発見し、早期治療が大切ですが、日本の頚癌検診受診率は欧米の約半分程度(2019年 43.7%、欧米 80%前後)です。
自分の体やお子さんを守るために、子宮頸癌ワクチンや子宮癌検診について、ご検討いただき、疑問などあればご相談ください。
追記として、キャッチアップ接種について記載します。
定期接種の積極的な推奨がなされない間、HPVワクチンを接種しなかった、平成9年度生まれから平成17年度生まれの9学年の方で、希望のある方は、令和4年4月から令和7年3月までの3年間、無料でHPVワクチンを接種することが可能です。
ご不明な点がございましたらご相談下さい。
参照
ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)
HPVワクチンについて | 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 (jsgo.or.jp)
(2)ISRR の分類 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
日本小児科学科の「知っておきたいわくちん情報」のA-10予防接種ストレス関連反応(ISRR)ol (jpeds.or.jp)